「墓じまい」~子どもに宿題を残さないために~
目次
墓じまいとは
「墓じまい」とは、現在のお墓を解体・撤去して更地にし、その使用権を墓地の管理者に返還することです。その際には、元のお墓から出したご遺骨を、別の場所や別の形で供養する必要があります。
筆者が子どもの頃、お彼岸やお盆にお墓参りをすることは、当然の家族行事として存在していました。しかし、最近では、少子高齢化や核家族化に伴う管理者不足といった理由で、「墓じまい」をされる方が増えています。
そこで今回は、墓じまいにかかる費用や手続きの方法、注意すべき点について見ていきたいと思います。
墓じまいが増加している背景
先祖代々受け継がれてきたお墓を「墓じまい」する事例は、増加傾向にありますが、その背景にはいったい何があるのでしょうか。
1.お墓を守る人の負担が大きい
墓じまいを検討する際、よく聞かれるのが、お墓が自宅から遠く守るのが難しいという理由です。就職や結婚によりお墓がある故郷から遠く離れたところで暮らす人にとって、頻繁にお墓参りに訪れることは困難です。また、結婚して夫婦になると、自分のお墓だけでなく、両家のお墓を管理することになる可能性があります。
お墓参りをしなければ、掃除が行き届かなくなり、伸び放題の雑草が近隣へ迷惑をかけているのではないかと心配することになります。ご自身がお墓を守ることを負担に感じている場合、子どもの代にも負担がかかることを避けたいという思いが強く、墓じまいを考えるケースが増えてくるのです。
たとえお墓が自宅から近いところにあっても、高齢になるにつれてお墓参りに行く体力がなくなるケースも多いでしょう。運転免許を手放したことで、お墓参りに行くのに誰かに送迎を頼まなければならなくなると、足を運びにくくなります。その結果、墓じまいを検討するご年配の方も多いようです。
2.お墓を承継する人がいない
子どもがいない夫婦や生涯独身の方の中には、自身の死後にお墓を守る家族や親せきがいない方も少なくありません。お墓の承継が出来なければ、きちんと墓じまいをしてご先祖様の遺骨を供養することも選択肢の一つとなります。
お墓を承継する人がいない場合に、終活の一環として墓じまいをし、死後の不安や悩みを解消するケースも増えてきました。
3.お墓に対する価値観の多様化
お墓は先祖代々受け継ぎ守っていくもの、という価値観が変わってきたことも、墓じまいが増加している理由の一つです。戦後、家族の在り方は大きく変わり、「家」や「先祖」に対する価値観も多様化してきました。その結果、お墓を今までのように受け継いで守っていくことに対する義務感が薄くなってきています。
墓じまいのメリット・デメリット
1.墓じまいのメリット
墓じまいをすることの一番のメリットは、自身だけでなく承継者もお墓の維持・管理という負担を軽減することができる点です。お墓参りや掃除といった時間と手間が軽減されることはもちろん、それに伴う交通費や墓地管理費が不要となるため、金銭面での負担もなくなります。
また、何もせずに管理者がいなくなってしまうと、先祖代々受け継がれてきたお墓は無縁仏として祀られることになってしまいますので、元気なうちに自分の手でしっかりと墓じまいをすることで安心できるという点もメリットと言えるでしょう。
2.墓じまいのデメリット
墓じまいにはデメリットもあります。まず、お墓の解体・撤去には費用がかかります。一時の出費とはいえ、ある程度まとまった金額になりますので、墓じまいの検討をする際には、最初に把握しておくべきでしょう。
また、ご先祖様を同じくする家族や親せき、菩提寺とトラブルになることもあります。
墓じまいを検討する際は、あらかじめ情報を集め、関係者としっかり話し合いをすることが大切です。
墓じまいにかかる費用
1.費用の内訳
墓じまいにかかる主な費用は、一般的に30万~300万円程度と言われています。おおよその内訳は以下の通りです。
内訳 | 費用の目安 |
撤去費(墓石解体・撤去・更地費用など) | 10万~30万円程度 |
閉眼供養費(遺骨取り出し時のお布施) | 3万円程度 |
離檀料(檀家を辞める際のお布施) | 3万~30万円程度 |
開眼供養費(納骨時のお布施) | 3万円程度 |
永代供養料(合祀墓・・・他の人の遺骨と合同納骨) | 5万~10万円程度 |
永代供養料(個別納骨) | 20万~200万円程度 |
現在のお墓を撤去するだけであれば、10万~30万円程度で大きな差はありません。大きく変わってくるのは、墓石を撤去した後、取り出した遺骨をどうするか、すなわち改葬先の費用です。
改葬先では、永代供養を選択するケースが多いと思いますが、合祀墓か個別納骨かで費用は大きく変わります。そもそも改葬先の寺院・霊園によって異なりますし、最近では建物内に納骨・参拝スペースを設置して遺骨の管理・供養を行う納骨堂や、墓石の代わりに樹木や草花を植えてその付近に納骨する樹木葬など、様々な納骨の方法があり、費用も一概にいくらとは見込みにくくなっています。
いざ、墓じまいを始めた後で、想定外に費用がかさむことがないように、改葬の内容や改葬先について検討し概算の費用を見積もっておくことが重要です。
2.なるべく費用を抑えるには
墓石の解体・撤去作業の費用は業者によって異なりますので、事前に比較検討し、できるだけ安く請け負ってくれる業者を探すことで費用を抑えることは可能です。
また、取り出した遺骨を納骨するのではなく、手元供養や散骨などを選択する方法もあります。ただし、遺骨や遺灰の入った骨壺を自宅に置く手元供養には、参拝に行く必要がないというメリットがありますが、自身の死後どうするのかを決めておくことを忘れないでください。
墓じまいの仕方
1.墓じまいの一般的な進め方
- 親族の同意を得る
- 管理者に墓じまいをしたい旨を連絡する
- ご遺骨の受け入れ先を決める
- 墓じまいの依頼先を決める
- 墓地がある自治体で改葬許可証を発行してもらう
- ご遺骨を取り出す
- 墓域を更地にして管理者に返還
2.具体的手続きについて
親族の同意を得る
お墓に対する価値観が多様化してきたとは言っても、親族の中には「お墓は代々受け継いでいくもの」という考えを持つ方がいる可能性があります。大切な人のご遺骨を納めたお墓を心の拠り所としている人にとっては、お墓という形が必要かもしれません。
後々、トラブルとならないようにするためにも、親族や関係者には「なぜ墓じまいを考えたのか」「墓じまいの後はどうするつもりか」を丁寧に説明し、納得してもらう必要があります。
管理者に墓じまいをしたい旨を連絡する
墓じまいをすることが決まったら、お墓の管理者にその意思を伝えます。お墓の管理者は寺院や宗教法人、自治体や個人である場合もあります。管理者が不明な場合は地区の寺院や親族に聞いてみたり、自治体で墓地台帳を確認してみましょう。
管理者に対しても、墓じまいに至った経緯をしっかり説明し、「埋葬(埋蔵)証明書」を発行してもらいます。
ここでも説明不足が原因でトラブルにならないよう注意が必要です。
ご遺骨の受け入れ先を決める
墓じまい後の受け入れ先には、別の一般墓や樹木葬、納骨堂、永代供養をしてくれる施設への改葬、手元供養などがあります。
改葬する場合は、改葬先を探し管理者に「受入証明書」を発行してもらいます。
墓じまいの依頼先を決める
お墓を解体・撤去する作業は個人で行うのは難しいため、代行している石材店や専門業者に依頼する方が良いでしょう。その際、複数の業者から見積もりを取り、比較検討することも重要になりますが、墓地によっては依頼できる業者が決まっていることがありますので、管理者に確認しておきましょう。
墓地がある自治体で改葬許可証を発行してもらう
墓じまいするお墓のある市区町村に、管理者から発行された「埋葬(埋蔵)証明書」、改葬先から発行された「受入証明書」と併せて、「改葬許可申請書」を提出し、「改葬許可証」を受け取ります。
なお、散骨や手元供養の場合にはこの手続きは必要ありませんが、場合によっては改葬許可申請書の提出を求められることがあります。その際は自治体の窓口やウェブサイトからダウンロードした申請書に、改葬理由を「自宅供養のため」などと書いて準備しておくと良いでしょう。
ご遺骨を取り出す
改葬許可証を入手した後は、お墓に納められているご遺骨を取り出すことができます。
お墓がある施設によっては、閉眼供養を行います。
墓地を更地にして管理者に返還
ご遺骨を取り出したら、お墓の解体・撤去を行い、墓地を更地にして管理者に返還します。
なお、改葬する場合は、改葬先にて開目供養を行ってもらう必要があります。
墓じまいに関するトラブルとその対策
1.親族
お墓に対する思いやお寺との関係性は、親族間でも異なります。
誰かが勝手に墓じまいをしてしまうと、トラブルになりかねません。
また、墓じまいをすることは同意しても、改葬先や、費用負担の面でもめ事になることもあります。
墓じまいの手続きを始めたり管理者に連絡したりする前に、最終的にどうするのかまで、しっかり話し合う以外にトラブルを回避する方法はないでしょう。
2.お寺
現在のお墓の管理者がお寺の場合、感情的になり、法外なお布施(離檀料)を請求されるといトラブルも珍しくありません。親族と同様、お墓の管理者にも墓じまいに至った理由やどうしたいかを丁寧に説明することが必要です。
また、お墓の解体・撤去作業については管理者指定の業者へしか発注できない場合があります。その場合でも事前に費用について確認しておきましょう。
3.改葬先
トラブルになりやすいのは、永代供養を選択した場合です。最初に永代供養の費用を支払うことで、その後の支払いは発生しないのが一般的ですが、管理者によっては、別途年会費や管理費等がかかるケースもあります。
また、参拝のルールについての誤解があったり、合祀墓の場合は分骨や改葬ができないことを知らなかったりして、トラブルになることもあります。資料などでよく確認してから契約するようにしましょう。
まとめ
当然ながら、墓じまいをする事情や状況は、ひとりひとり異なります。負担を減らすことが理由となることから、話し合いが上手くいかなかったり、想定外の費用が発生することもあります。
また、実際に墓じまいをして後悔する人もいます。
墓じまいをしてしまうと、元に戻すことはできません。お墓の管理や墓参りついては、代行サービスなどもありますから、そのようなものを利用しながら、しっかり納得いくまで検討し話し合いましょう。