医療費控除とセルフメディケーション税制~何が違うの?併用できるの?~
目次
1.医療費控除とセルフメディケーション税制ってなに?
日本に居住し所得がある人は、その所得金額に応じた所得税を納めなければなりません。
ただし、所得税法では「所得税控除」という、所得税額を計算する時に各納税者の個人的事情を加味しましょうという制度が設けられています。
所得控除には、社会保険料控除や生命保険料控除など14種類があり、その中の一つが医療費控除です。
また、健康維持増進のために一定の取り組みを行う個人が、特定の医薬品を購入した額を対象とする医療費控除の特例(セルフメディケーション税制)もあります。
一年間に、自分や生計を一にする親族のために支払った医療費が高額だと、所得控除の対象となる場合がありますので、しっかり確認をし、控除を受けられる場合は確定申告を忘れないでください。
・医療費控除とは
その年の1月1日から12月31日までの間に自己または自己と生計を一にする配偶者やその他の親族のために医療費を支払った場合において、その支払った医療費が一定額を超えるときは、その医療費の額を基に計算される金額の所得控除を受けることができます。これを医療費控除といいます。
医療機関や介護施設に支払った診療費だけでなく、通院費や入院時の部屋代、食事代などの診療等を受けるために通常必要とされるものが対象となります。ただし、健康診断の費用や自家用車で通院した場合のガソリン代・駐車場代などは対象外です。また、健康保険で支給される高額療養費や出産一時金などと、医療保険や生命保険で入院や通院をしたことによって給付された入院給付金などの保険金額は医療費から差し引き、その上で10万円を超えた部分が、所得控除の対象となります。
≪ 医療費控除額 = (1年間に支払った医療費の合計 ー 保険金等で保険された金額)-10万円 ≫
・セルフメディケーション税制とは
セルフメディケーション税制(特定の医薬品購入額の所得控除制度)とは、医療費控除の特例として、健康の維持増進及び疾病の予防への取組として一定の取組を行う個人が、平成29年1月1日以降に、スイッチOTC医薬品(要指導医薬品及び一般用医薬品のうち、医療用から転用された医薬品)を購入した際に、その購入費用について所得控除を受けることができるものです。
健康の維持増進及び疾病の予防への取組と認められるには、申告する人が予防接種や健康診断・がん検診などを受け、領収書や結果通知表を提出する必要があります。そのうえで、スイッチOTC医薬品(要指導医薬品及び一般用医薬品のうち、医療用から転用された医薬品)を購入した金額が世帯で年間合計1万2000円以上の場合、セルフメディケーション税制の利用が可能です。対象となるスイッチOTC医薬品については、厚生労働省のホームページをご確認ください。 →セルフメディケーション税制(医療費控除の特例)について (mhlw.go.jp)
ただし、同じ人が医療費控除とセルフメディケーション税制の両方を申告することはできません。一年間の支出を計算したうえで、控除金額が大きくなる方を選択する必要があります。
そこで、両制度の共通点と相違点、それぞれの計算方法について確認してみましょう。
2.医療費控除とセルフメディケーション税制を比較
・共通なのは対象期間と対象者
医療費控除とセルフメディケーション税制のどちらを利用すべきか、1年が経過してみないとわかりません。申告者や生計を一にする配偶者・その他の親族が、医療機関に通院・入院したり、スイッチOTC医薬品を購入した場合には、レシートや領収書をまとめて保管しておきましょう。
・医療費控除とセルフメディケーション税制の違いはなに?
まず、対象となる金額は大幅に異なります。入院や長期の通院を伴う治療の場合は、負担が大きくなりますので、医療費控除の対象額を超える可能性があります。治療費だけでなく、通院費(バス・電車の利用記録やタクシーの領収書)も含めて支出を計算しましょう。しかし、家族分とはいえ、健康保険や民間の医療保険から補てんされる分を差し引くと10万円を超えず、対象外となる方も多くいらっしゃいます。
その場合でも、セルフメディケーション税制を利用できる可能性があります。セルフメディケーション税制は、家族分で1万2000円以上のOTC医薬品を購入した場合が対象となりますので、制度の恩恵を受けられる人は多いと思います。ただし、【セルフメディケーション=軽度な不調は医療機関に頼ることなく自分で手当てすること】を意味しますので、医療機関での治療費や検査費用は対象外となります。対象となるのは指定の医薬品のみですから、ドラッグストアなどで購入する際には、OTC医薬品かどうかを確認してください。
また、セルフメディケーションは自分の健康状態に責任を持つという意味からも、何らかの定期検診を受けていることが条件になりますので注意してください。
このように、医療費控除とセルフメディケーション税制では、対象そのものが実は異なりますので、それぞれでレシートや領収書をまとめて計算し、比較する必要があります。
3.医療費控除とセルフメディケーション税制の使い分け
・どちらを使う?計算方法を確認
1年分のレシートや領収書をまとめたら、控除の対象となるか確認するために計算をします。
例として、給与所得者で課税所得(年収から社会保険料控除など会社員の経費を控除した金額)が400万円、所得税率20%の方が申告する場合を見てみましょう。
●制度利用前の所得税 400万円 × 20% ー 427,500円(控除額)= 372,500円
●医療費控除の場合
医療機関で支払った額・通院費の合計 35万円
医療保険から給付された金額 12万円
医療費控除金額 = 35万円 ー 12万円 ー 10万円 = 13万円
制度利用後の所得税 (400万円 ー 13万円) × 20% ー 427,500円(控除額)= 346,500円
軽減額は 372,500円 ー 346,500円 = 26,000円 となります。
●セルフメディケーション税制の場合
購入した医薬品代 5万円
セルフメディケーション税制控除金額 = 5万円 ー 1万2000円 = 3万8000円
制度利用後の所得税 (400万円 ー 3万8000円) × 20% ー 427,500円(控除額)= 364,900円
軽減額は 372,500円 ー 364,900円 = 7,600円 となります。
仮に、医療費控除の対象となる支出が10万円以下の場合は、控除の対象となりませんので、セルフメディケーション税制を利用できないか検討しましょう。
両方対象となる場合は、控除額が大きい方を利用します。使い分けについてまとめました。
・夫婦で併用するには
医療費控除とセルフメディケーション税制、それぞれの対象となる一年間の支出を合計し、対象額を出します。申請者はその結果から、還付額が大きい制度を利用します。どちらか選択しなくてはなりません。
ただし、例えば夫婦共働きで収入があり、どちらも所得税を納付している場合、一方が医療費控除を申告し、他方がセルフメディケーション税制を利用することが可能です。つまり、同一世帯の中に、医療費控除により申請する人と、セルフメディケーション税制により申請する人がいて構わないのです。
合計金額を算出した結果、どちらの制度も対象額を超えている場合は、夫婦や同一世帯の親族で、両方を活用できないか確認し、確定申告を忘れずに行いましょう。
まとめ
医療費控除制度やセルフメディケーション税制は、病気やケガで高額の治療費が発生したり、病気の予防に努め、軽度の病気やケガの治療を自分で手当てした場合に、所得税控除を受けられる制度です。
家族分の領収書を保管したり、確定申告をしなければならないのは手間がかかることではありますが、領収書の提出が不要となったり、e-TAXなどより手続きを簡易にできるよう工夫されていますので、しっかり手続きをしてください。
5年分はさかのぼって申告できますので、領収書等が残っていないか、探してみてください。医療機関の利用頻度や市販薬の購入頻度が高い方は、お薬手帳の活用やかかった医療費を一覧にしてレシートや領収書と一緒に保管しておく習慣ができると、確定申告の手続き時に役立ちます。