40代で始める、おひとりさまの終活 その1

 昭和~平成~令和を生きてきた私たちは、高齢化と家族のカタチの変化により、人生の後半戦をおひとりさまで過ごす可能性が高くなりました。「ひとりだから老後が心配。」「今はいいけど、将来ひとりになったらどうしよう。」こんな相談を受けることも多々あります。そのときにお勧めしているのが「終活」です。
今回は、おひとりさまの終活が必要な理由と、生前のリスクに対してやるべきことをお伝えします。

おひとりさまの終活とは?

 おひとりさまの定義はいろいろあると思いますが、今回は、配偶者やパートナー、子や孫、兄弟姉妹がいない方、または、いたとしても高齢や認知症だったり、海外在住や交流がないなどで頼ることができない方とします。
今おひとりさまの方も、将来おひとりさまになる方も、気軽なひとり暮らしを楽しむことができている間はいいのですが、老後は心身の衰えにより様々な問題を抱えるようになっていきます。

おひとりさまになる可能性は誰にでもあります

 総務省の調査によれば、核家族化が進んできた日本では、2040年には単独(独身)世帯の割合が全体の40%を占め、そのうちの9,000万世帯が65歳以上になると予想されているのです。今は配偶者がいても、死別や離別によりおひとりさまになる可能性は、誰にでもあるのです。 

おひとりさまの終活を始める時期は?

 これはおひとりさまに限らず言えることですが、皆さん、終活なんてまだまだ先のことだと思っていませんか?
人生の最後に向けての準備だと考えると、どうしてもネガティブな発想になりがちです。
 しかし終活とは、一度過去を振り返り、身の回りのことを整理して、不安のない未来への準備をすることです。終活をしたことで前向きになり、やりたいことが見つかったり、始めるべきときが明確になることもあります。何より終活には、老後の不安を小さくする役割があります。身軽に動けて自分のことを冷静に判断することができる40代こそ、終活を始めるのにメリットが多い年代といえます。

生前のリスクに備えましょう

 おひとりさまにとっての生前のリスクとしては、病気やケガにより入院・手術が必要になったときや、高齢や認知症でひとりで暮らすことが難しくなったときがあげられます。
 病院への入院や施設への入居には、費用の支払いを保障したり、死亡時のサポートなどをする身元保証人が必要となります。
 介護が必要になった場合、現在の住居に住み続けることが難しくなる可能性や、認知症などで自分の財産を管理できなくなる可能性もあります。
 同居人がいないおひとりさまの場合、不衛生な環境下での生活となったり、詐欺や犯罪に合うリスクも高くなります。

エンディングノートを書いてみよう

 まず最初に取り組みたいのが、エンディングノートの作成です。エンディングノートの書き方に決まりはありませんが、最近は記入すべき項目が印字されたエンディングノートがたくさん市販されていますので、自身が書きやすいエンディングノートを探すことから始めるのもお勧めです。
 エンディングノートに記入する内容は、「過去のこと」「現在のこと」「これからのこと」です。

 ①過去のことを書く

 「過去のこと」には、自分のこれまでのことを書きます。過去を振り返ることはこれからの人生を考えるきっかけとなります。また、既往症についても記入します。大きな病気だけでなく、服薬中の薬名や副作用、アレルギーの有無などについて書いておけば、将来治療が必要となったときに手掛かりにもなります。

 ②現在のことを書く

 

 「現在のこと」には、現在の交友関係や資産・借入の内容、加入中の保険内容などを書きます。治療中の病気やかかりつけ医についても記入しておきましょう。所有しているクレジットカードの種類や、契約中のサブスク、利用しているSNSのアカウントなども書き出してみると、現在の生活を整理するのに役立ちます。
 デジタル終活についてはここでは詳しく触れませんが、オンラインでデータの保管や金融商品の取引もできる時代ですから、亡くなった後で犯罪に利用されたり、損害が生じたりしないように整理しておくことはとても重要です。ただし、パスワードなどをエンディングノートに記入した場合は、盗難や紛失で情報が漏れないように十分に注意してください。

 ③これからのことを書く

 「これからのこと」は、やりたいことや行きたい場所を記入します。5年後、10年後にどんな暮らしをしたいのか、書き出すことで課題も見えてくるでしょう。また、どんな最期を迎えたいのか、死後、誰に連絡を取ってほしいのかなどを書いておくと、いざというときに周りの人が判断しやすくなります。

住む場所について考えましょう

 年齢を重ねれば、足腰が弱くなり、住み慣れた自宅に不便を感じることもあります。自動車や自転車に乗れなくなると、買い物や通院が大きな負担となることでしょう。不便を感じてから住み替えを検討しても、手遅れかもしれません。体力があり行動できるうちに、老後の生活を見据えて住環境を見直すことが大切です。

 ①終の棲家は、持ち家?賃貸?

 老後に住むなら持ち家か賃貸か。どちらにもメリットとデメリットがあります。自身にとってよりメリットが多いほうを選択しましょう。

メリットデメリット
持ち家資産になる
老後の負担を減らせる
これから取得するにはまとまった資金が必要
簡単に住み替えできない
固定資産税やリフォーム費用が必要
賃貸住み替えが容易にできる
近隣トラブル発生時に引っ越しができる
住宅ローンがない
資産にならない
リフォームができない
老後も継続的に家賃が発生
入居を拒まれる場合もある

 持ち家は家賃を払えなくなるという不安がなくなりますが、そのためには早い段階でローンの返済を終わらせておく必要があります。これから住宅を購入される方は、老後の収入を見据えてローンを組んでください。ローンが終わっても、固定資産税やリフォーム費用が必要となりますので、生活費に組み込んで計画しましょう。
 賃貸であれば自分の都合に合わせて住み替えが可能ですが、引っ越しの都度費用は発生します。また、家賃の他に管理費や共益費などがかかりますので、年金暮らしでも捻出できる範囲で住み続けられるかがポイントとなります。自治体が設置する高齢者を対象とした住宅もありますので、早めに情報収集をしておきましょう。

 ②老人ホームという選択

 おひとりさまの老後の選択肢として外せないのが老人ホームです。介護の必要性などにより、入居できる施設が異なりますし、低料の施設は空きがないこともあります。まずは、老後を過ごしたいエリアでいろいろなパターンの施設を探してみましょう。そうすることで、介護が必要な場合とそうでない場合のそれぞれで、こんな施設に入居したいという希望が明確になってくるはずです。費用面も確認し、希望をかなえるためには、その前の住居を持ち家にするべきか賃貸にするべきかも合わせて検討しましょう。

<高齢者施設のの主な種類>

●特別養護老人ホーム(特養)         要介護3以上。比較的費用は安いため入居希望者も多い。看取り対応可能。
●介護老人保健施設(老健)要介護1以上。在宅復帰を目指しリハビリを中心とする施設のため、入居期間は3~6ヵ月。
●介護医療院  日常的医学管理やターミナルケア等の医療機能と、生活施設としての機能を提供できる長期療養者向け施設。要介護1以上で入居可能だが、より重度な人が優先される。
●有料老人ホーム介護付有料老人ホーム、住宅型有料老人ホーム、健康型有料老人ホームがあり、施設により介護サービスや生活スタイルが異なる。
●サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)介護要件は問わず、高齢者の安全確認サービスと生活相談サービスが提供される施設。介護サービス事業所併設型も多い。

入院に備えましょう

 年齢とともに病気やケガのリスクは高まり、入院が必要となるケースも増えてきます。また、十分な意思確認ができない状態になると、希望する治療を受けられない可能性も出てきます。あらかじめ治療を受ける病院や延命治療について意思表示をしておきましょう。

 ①かかりつけを作ろう

 自分の健康状態を把握してくれて、体調についての相談ができるかかりつけ医やかかりつけ薬局は、おひとりさまにとってとても頼りになる存在です。今は健康な人でも、信頼できるかかりつけを作りましょう。

 ②入院セットを準備しよう

 病気やけがは予測できず、いつ入院が必要になるかわかりません。着替えや洗面用具、少額の現金などをまとめてわかりやすい場所においておけば、入院後でも誰かに頼みやすくなります。また、民間の医療保険等に加入している場合は、連絡先と証券番号を控えておくことも忘れないでください。

 ③入院にかかる費用を用意しよう

 入院や手術が必要となれば、少なからず自己負担が発生します。公的医療保険対象の治療であれば、自己負担は3割以下で、高額療養費制度もありますが、治療期間が長引くと支払いが負担となってくるでしょう。自身の自己負担額の上限を確認し、不足分については民間の医療保険への加入なども検討しましょう。仮に、民間の医療保険に加入していても、保険金が給付される前に医療機関への支払いが必要となる場合もありますので(前払いの入院保証金など)、緊急予備資金として、30~50万円程度はすぐに出せるよう、銀行口座に用意しておくと安心です。

 ④身元保証人・身元引受人を決め依頼しておきます

 一般的に、病院へ入院したり、施設へ入居したりする際には、身元保証人(身元引受人)が必要となります。
身元保証人はあなたと共に、費用の支払い責任を負ったり、退院・転院時のサポートをしてもらうことになりますので、気軽に頼めるものではありません。あらかじめ、信頼のおける家族や友人に頼んでおきましょう。また、身元保証人を引き受けてくれた人には、お礼として遺言などにより財産を渡すようにしておくことも検討してください。

暮らしを整えよう

 エンディングノートを作成し、やるべきことが見えてきたら、今の暮らしを整えていきましょう。

 ①荷物を整理しましょう

 年齢とともに増えてしまった持ち物。これらの処分は亡くなった後ではできません。今のうちに不用品を手放しておけば、遺品の整理をする人の手間や労力を抑えられるだけでなく、今の暮らしにゆとりが生まれストレスも軽減することでしょう。

 ②お金と資産を管理しましょう

 使っていない銀行口座やクレジットカードは解約し、所有する株式や投資信託、投資物件などの情報をまとめておきましょう。ローンなどの借入金の有無、借入金がある場合は万が一のときの返済方法も確認しておきましょう。
また、1年間のお金の流れを把握しまとめておくと、財産管理を他人に頼むときに役立ちます。

関連する制度を知ろう(生前編)

財産管理等委託契約

 判断力はあるけれど、寝たきりになるなど身体が不自由で手続きなどに支障が出たときに備えて、自身の財産を管理するための代理権を他人に与えるための契約です。代理権を付与したからといって自身の法律行為が制限されることはありません。
 専門家に依頼する場合は費用が発生します。信頼できる人に依頼する場合も、報酬について話し合って決めておかないと、後々トラブルになりかねません。また、財産管理委任契約書を公正証書にしておかないと、社会的信用が十分でないため注意が必要です。とはいえ、預金の引き出しや介護施設への入居申請、税金の手続きなどを自身で出来なくなる可能性に備えて、検討しておく必要があります。

任意後見人制度

 認知症などで判断能力がなくなったときに、本人に代わって契約したり、財産管理を行ってもらう人を、あらかじめ決めておく制度です。

 信頼できる人に対して、財産管理等委託契約と任意後見人契約を同時に結んでおくと安心です。自身に判断能力がある間は財産管理等委任契約で代理権を付与しておいて、判断能力が落ちた場合に自動的に任意後見契約にスライドするよう移行型任意後見人契約をしておけば、タイムラグがありません。
 判断能力が低下した後では任意後見人契約を結ぶことができず、家庭裁判所へ申し立てて法定後見人を選任してもらう必要があります。

終活の目的

終活には2つの目的があります。
1つ目は、「より良く生きるため」の終活です。
日常生活が不便になったときのために準備をすることで、将来の不安が小さくなります。自分のこれまでを見つめなおし、身の回りを整理してください。やりたいことを見つけ、やるべきことを明確にしましょう。もちろん、新たな不安に気づくこともあるでしょう。しかし、40代の今ならその不安を解消するための時間が十分にあります。今を楽しみより良く生きるために、まずはエンディングノートを作成するところから始めてみませんか?

次回は、もう1つの目的「希望する最期を迎えるため」の終活についてお伝えします。

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