「戸籍にフリガナ」 何が変わるのか

 子どもの同級生名簿や職場で新入社員の名簿を見て、「この子の名前、なんて読むの?」と思ったことはありませんか?
 また、「中島」のように地域によって「なかじま」だったり「なかしま」だったりと、誰でも読めるにもかかわらず、読み方が2種類以上ある名前も存在します。

 名前には歴史や想いが詰まっていますから、読み仮名も大切だと思うのですが、現在の日本ではその扱いがややあいまいになっています。

 しかし、デジタル社会において「読み仮名」による個人データの検索は効率化につながるとの視点から、戸籍への読み仮名の記載を必須とする改正戸籍法が成立しました。

 今日は、この法改正が私たちの暮らしにどう影響するのか考えてみたいと思います。

1.現在の読み仮名に関する制度

・どこで登録するのか

 現在は、子どもが生まれた時に出生届に氏名と読み仮名を書き、役所に提出します。その際、「名」の欄に書かれた漢字が、常用漢字表と人名用漢字表に掲げられた漢字であるかという確認は入りますが、読み仮名については特に規定がありません。読み仮名はデータとして住民基本台帳に残されますが、戸籍には反映せず、戸籍謄本を取り寄せても、読み仮名は記載されていません。

 また、住民票に読み仮名が記載される自治体もありますが、市区町村ごとに任意で行われていることであり、必須項目ではありません。

・読み仮名を変更するには

 氏名の読み仮名については市区町村で管理されているため、読み仮名だけを変えるなら、市区町村へ変更届を提出するだけになります。届け出方法は市区町村によります。また、そもそも登録されていない市区町村もあり、変更手続き自体がない場合もあります。

2.法改正後の制度とは

・いつからどうなる?

 2023年6月2日に改正戸籍法案が可決・成立したことから、2024年にも施行される見通しです。

 施行されると、戸籍へ読み仮名を記載することが必須となります。

 記載はカタカナで、新生児の出生届など初めて戸籍に記載される人は、その届出の際に記載した読み仮名が戸籍に登録されます。すでには戸籍がある人は、筆頭者が氏名、筆頭者以外が名前に関し届け出ます。書面か、マイナンバーカード取得者向けのサイト「マイナポータル」を使って行われることが想定されます。

 全国民が1年以内に本籍地の市区町村に読み仮名を登録する必要があります。

 1年以内に届出をしない場合、本籍地の市町村長が職権により戸籍にフリガナを付けます。出生届や住民基本台帳、パスポートなどの情報をもとに行われることが想定され、そのフリガナは、登録前に市町村長から戸籍の人に通知されます。
 ただし、自治体の業務が混乱することを避けるために、最初から職権により読み仮名が登録され、戸籍の人に書面での確認が入るというやり方になることもあるでしょう。

・キラキラネームは登録できるのか

 いわゆる「キラキラネーム」など漢字本来と異なる読み仮名は「氏名に用いる文字の読み方として一般に認められているもの」との基準が設けられます。

 この「一般に認められる」かどうかの判断基準は今後通達される予定ですが、
 ①漢字とは意味が反対
 ②読み違いかどうか判然としない
 ③漢字の意味や読み方からはおよそ連想できない

といった読みは許容しない方向です。例えば「太郎」の読み仮名を「じろう」にするなどは認められないでしょう。
 また、常用漢字表や辞書に掲載がない読み仮名の場合も、届け出人に説明を求めた上で判断される見込みです。

 名前だけでなく、苗字に関しても「一般的に認められる」読み仮名でないものもあります。
 さらに、親戚なのに、読み仮名が違う場合などもあります。

 今回の法改正は、1870年の名字帯刀以来初めて、全国的に正しい読み仮名を決める機会になるかもしれません。

・法改正後に変更するには?

 出生時とは異なる読み方をしている方もいらっしゃるでしょう。法務省は、その場合すでに使っている人の氏名の読み仮名は認める方針です。しかし、その情報が正しく反映されない可能性は高く、読み方の変更が必要となるケースも想定されます。

 本籍地の市町村長が職権により戸籍にフリガナを記載した場合は、1度に限り、家庭裁判所の許可なく読み仮名を変更できます。
 しかし、それ以外の理由で法改正後に読み仮名を変更するには、家庭裁判所の許可が必要となってくる予定です。

 

家庭裁判所での読み仮名の変更手続きとして、次の2通りの方法があります。

・苗字や下の名前の読み仮名のみを変更する
・苗字や下の名前自体を変更し、その際に読み仮名を変更する

苗字の読み仮名を変更する場合には「やむを得ない事由」が、下の名前の読み仮名を変更する場合には「正当な事由」が必要となり、基本的に下の名前より苗字の読み仮名を変更する方が基準は厳しくなります。

3.まとめ

 行政事務のデジタル化が進んだことで、問題点も出てきました。実は、マイナンバーカードのICチップに記録されている4情報(住所・氏名・生年月日・性別)には、氏名の読み方(フリガナ)が含まれていません。
 しかし、マイナンバーと金融機関の口座を紐づけする際、口座名義を照会するには氏名のフリガナを用いています。一般に、氏名とフリガナを自動的に変換することはできないため、マイナンバーカードと金融機関の口座を自動的に照合することができず、家族口座が登録されるという現象が発生しニュースになりました。

 このような背景もあることから、戸籍への読み仮名の記載は急ピッチで進められることでしょう。一方で、膨大な受理業務に対応する自治体の負担に対する対策や、高齢者や障害者ら届け出が困難な人への支援も必要となります。

 一般的に認められない読み方でも、すでに使われている氏名に関しては、説明を聞いたうえで判断すると柔軟な姿勢がみられる一方で、これから出生届を出す場合には、審査が厳しくなる可能性もあります。また、家族・親族間での認識の違いなどで混乱することもあるでしょう。
 今後、デジタル戸籍による手続きが主流になるのは避けられませんので、金融機関の口座名義やクレジットカード、パスポートの表記を確認し、戸籍と統一できるように準備しておきましょう。

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