高額療養費限度額とは?引き上げ問題を解りやすく解説
最近、ニュースで取り上げられるようになった、「高額療養費限度額の引き上げ」。
高額療養費制度を利用したことのない方の中には、具体的に何が変わるのかわからないという方も多いようです。
そこで今回は、この制度の基本と、最近話題になっている限度額の引き上げについて、分かりやすく解説します。
高額療養費制度とは

病気やケガの種類によっては、長期の入院や高額な治療が必要になります。
医療費が高額になり、家計の負担となるようなときに役立つのが「高額療養費制度」です。
「高額療養費制度」とは、公的医療保険に加入している人が、1カ月(1日から末日まで)に支払った医療費の自己負担額が一定の上限を超えた場合、超過分が払い戻される仕組みです。
この制度のおかげで、どれだけ医療費がかさんでも、一定額以上の支払いを免れることができます。

厚生労働省保険局 「高額療養費制度を利用される皆様へ」より
この自己負担の上限額を「高額療養費限度額」と呼び、その額は年齢や所得によって異なります。
例えば、69歳以下の方の場合、限度額は「所得区分」に応じて決まり、一般的な年収(標準報酬月額28万~50万円の方)の世帯ではおおよそ9万円程度になります。
一方、70歳以上の方には、より低めの限度額が適用され、高齢者の生活を支える仕組みになっています。

厚生労働省保険局 「高額療養費制度を利用される皆様へ」より
限度額引き上げとは
さて、2024年の制度改正では、この高額療養費限度額が引き上げられることが決まりました。
具体的には、現役並み所得者の負担が増加し、医療費が一定額を超えた場合の自己負担上限が高くなります。
先ほどの一般的な年収の世帯でおおよそ9万円程度だった自己負担額が、最終的には14万円を超える可能性があります。
背景には、医療費が増大していることや社会保障費の財源確保といった課題があります。
みなさんが払う健康保険料の負担が増えないようにして、「国民皆保険」を持続することが狙いです。
この改正によって、高額療養費制度そのものがなくなるわけではないので、家計を守る強力なセーフティネットであることには変わりありません。
また、限度額を超えた場合の払い戻しはこれまで通り行われますので、安心して医療を受けるための制度として活用できます。
にもかかわらず、制度改正の見直しを求める声が多く上がっています。
その理由は、「限度額の引き上げ率が大きい」からです。
実際に、厚生労働省が提示している見直し案を見てみましょう。
厚生労働省保険局 高額療養費制度の見直しについて
2025年1月23日に開催された第192回社会保障審議会医療保険部会で提示された見直し案では、2025年、2026年、2027年と3段階で改正を行うことが示されています。
69歳以下で、年収が700万円の方のひと月の医療費が100万円(3割負担:30万円)の場合で見てみましょう。

厚生労働省保険局「高額療養費制度の見直しについて」より試算
例のような条件だと、自己負担が3年で1.6倍になります。
今回の改正では特に収入が高い区分の値上げ率が高くなっています。
もちろん、収入が高い分、負担額が大きくなるのは、現行の日本の制度では仕方のないことかもしれません。
しかし、私がこれまでに相談を受けたご家族を見ても、収入が高いからと言って家計にゆとりがある方は少ないのが現状です。
特に世帯年収1,000万円前後で、教育費や住宅ローンを抱えている場合、医療費が大きな負担となる可能性が高いのです。
多数回該当とは
高額療養費制度には、「多数回該当」という制度があります。
ひと月の自己負担額が高額療養費限度額を超える月が、過去12か月の間に3回あった場合、4回目からは上限額が引き下げられる制度です。
がんなど高額な治療が長期間続く場合に、多数回該当となることがあります。
そのような方にとっても、今回の改正は負担増となるため家計に大きく影響するでしょう。
これにより、治療を断念する人が出てくるという患者団体からの要望を受け、2月14日、福岡厚労大臣は「多数回該当」については、負担増の見直しを取りやめ、現在の患者負担額を維持すると伝えました。
しかし、これは現在すでに多数回該当している人にとっては朗報でも、そうでない人にとってはあまり意味を成しません。
多数回に該当するための基準である限度額が引き上げられるので、多数回に該当する条件が厳しくなるからです。
まとめ
現在健康な方の中には、もし病気をしても、健康保険や高額療養費制度があるから大丈夫だろうと考えている方もいらっしゃいます。
先進医療や自由診療を選択しなければ、そんなにお金はかからないと思っている方もいらっしゃるでしょう。
しかし、医療の進化で、効果的な治療が生まれるのと同時に、高額な標準治療を選択できるようになりました。
家計と治療の板挟みになることのないよう、今回の限度額引き上げについて正しく理解し、いざという時に備えくことは、現在治療を行っていない人にとってもとても大切なことなのです。